あの日見上げた星空 A Part


 ねぇ、この空を見ながら死ねたらいいなって思わない?
 ほら、満天の星にさ見守られながら安らかに逝くんだよ。ね、なんか幻想的じゃない?


彼女は星空を見上げる度にいつも言っていた。
それが、彼女が彼女自身の死を本能的に分かってて言っていたのかどうかなど、今となっては分かる術などない。
ただ、今僕の眼に映っている彼女の遺影がそれを現実だと言っている。
遺影に写る彼女は微笑んでいた。それが、僕には僕だけに笑いかけてる様に見えた。
彼女と出会ってから4ヶ月、たった4ヶ月だがそれでも僕らは旧知の友よりもお互いのことをよく分かり合っていた ・・・はずだった。
結局僕は彼女のことを分かった振りして接していただけだったのだろうか。
初めて出会ってからすぐに意気が合い、息つく暇もないほど二人で遊びまわっていた。別に彼氏彼女という関係ではない。付き合うとかそういう縛りは必要ないとお互いが無意識のうちに分かっていた、と思う。
出会ってから3日目に彼女は星を見に行こう、と僕を誘った。僕は断る理由もなく、彼女のいつも見に行っている場所について行った。この日初めて僕は聞いたんだ、彼女が満面の笑みで


 ねぇ、この空を見ながら死ねたらいいなって思わない?
 ほら、満天の星にさ見守られながら安らかに逝くんだよ。ね、なんか幻想的じゃない?


と言うのを。その時、僕は笑ってこう言った。


 そうか?星空は綺麗だけどさ、俺はそこまで思えないなー。幻想的って言ってもさ、結局死んだらそこで終わっちゃってるじゃん。


それを聞いた彼女の顔は見ていなかったから分からなかったけど、あの言葉を言った時よりも声が少し低くなっていた気がした。


 キミはそういう人なんだね。死んだら意味ないよ、っていう考え方だ。


そう言った。少し間を空けて、彼女は笑顔を僕に向けてさっきまでの高い声で


 でも、人それぞれだし。キミの考え方はキミだけのものだし。無理矢理私の考え方を押し付けるのは私的にヤだから今言ったこと、聞き流して
 いいよー。


その時の僕は、彼女のことを深く知らなかったから彼女の言葉をそのまま受けて聞き流すことにした。
この日僕は初めて彼女を家まで送った。彼女が家に入る前に振り向いて笑いながらまた明日ね、と言った。僕も笑い返して、おう、また明日な、と言って彼女が家に入るまで彼女の後ろ姿を見送った。
彼女が僕の前から居なくなる前の日も一緒にいた。その日も星空を見上げていた。家にも送った。彼女は何一つ変わっている風ではなかった。
これが僕が見た彼女の元気な姿だった。次に会ったのはそれから一週間後のことだった。
彼女は最期まで眩しいくらいの笑顔で笑っていた。


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