#1[青空2]


遮断機が上がり優歌は全力でペダルを漕ぎ踏み切りを渡る。四季石詠香はまだ踏み切りの
手前を歩いていた。
四季石の横を通り過ぎようとしたときにわざとらしく気づいた振りをした。
「あ。四季石さん、こんちは」
四季石は声をかけられた方に顔を向けた。
「あ、桂木くん。こんにちは」
声をかけられて初めて気付いた様子に優歌は少し気落ちする。俺ってそんな風でしかないのか…。
とりあえず、気を持ち直しなんとか話そうと質問する。
「どこへ行くつもりで? 学校に? 」
「うん、その通り。よく分かったねぇ、桂木くんもしかしてエスパー? 」
「いやいや。なんとなく、こっちの道だったらそうかななんて」
そう言いながら二人して笑った。
「あ、そういやさ。高校どこ行くか決めた? 」
と、優歌。
「えっとねぇ、今のところは一応北坂かな」
と、四季石。
「そうなんだ、へぇ。じゃあ幸太(こうだい)と一緒だ」
「そうそう、幸太と一緒。あいつなんであんな頭いいのに北坂なんだろうね」
「ほんとだよな。家が近いからとか言ってるけど。ホントかな」
「あはは。ありえそうだけどね。桂木くんはどこの高校行くつもり?」
「俺は…竹高に行くつもり。ちょっと俺じゃあ分不相応だけどね」
「竹高! すごいね、あたしなんかじゃ到底入れないし」
四季石は笑いながら言った。その笑顔が優歌の眼にとてもかわいく映る。
少しみとれていて不自然に間が空いたようで、四季石が話しかけてきた。
「どうしたの、桂木くん? 太陽にやられたかー? 」
言われて、はっとする。
「あ、うん。大丈夫大丈夫」
と、タイミングがいいのか悪いのか警告音とともに遮断機が下り始めようとしていた。
「あ、じゃああたしもう行くね! バイバイ」
四季石は急いで踏み切りを渡っていった。優歌はその姿をボーっと見送った。そして、ふと
我に返り自転車を漕ぎ始めた。
(まずいまずい。本気で太陽にやられたか? 体が熱いな…)
その後、優歌は図書館に行ったが何をするでもなく椅子に座っていた。

こうして、優歌の――受験生の――貴重な夏休みの一日が無駄に使われた。


少しの月日が流れ二学期の始業式。
久しぶりにみる友人たち! 必然的に盛り上がるテンション! そして、始業式の後に聞いた
進路の話! 急激に下がるテンション。
しかし、その後に聞いた運動会の説明! また盛り上がるテンション! クラスは今一丸となって
運動会に取り組む!

放課後の教室。
運動会恒例のクラス旗製作になぜか選ばれた優歌がひとり座っていた。クラスの人達はそれぞれ部活
など思い思いに散り散りになっていった。
(はぁー。やる気がおきない…俺は本番で全力出す派なのに。前準備は好きじゃないよ…)
周りのクラスから楽しそうな声が聞こえる。
(他のクラスはみんな協力してんだなー。…もしかしてうちのクラスだけやる気なし!? まさか、
みんな僕みたいな当日全力タイプなんだろうか…)
と、どうでもいいことを考えていると、教室のいきなりドアが開いた。突然ドアが開いたことに優歌が
驚くと共に机から滑り落ちた。
「うわっ! えっ? ……あつっ!! 」
優歌は腰をしたたかに打った。
「いってぇ〜…誰だよ…」
半分泣き声で、腰をさすりながら教室のドアを見る。
悪びれる様子もなく笑いをこらえているような声で
「よう、桂木」
と言った。佐藤幸太だった。幸太は優歌の方に向かって歩いてきた。
「何やってんだよ? 一人でボーっとしてよ」
「お前こそ何しに来たんだよ?」
質問に質問で返す優歌。それに幸太は答えた。
「俺は忘れもん取りに来ただけだ。で? おまえは? 」
「俺は、クラス旗任されただろ。だから、何描こうかって考えてたんだよ。みんな俺に任せっぱなしで
帰るしよー。みんなやる気ないよなー、お前含め」
笑いながら言った。幸太はそれに真面目な声で言った。
「お前竹高受けんだろ? こんなことしてて間に合うのかよ? 」
急に真面目な声で言われて優歌は戸惑った。
「いや、それとこれは別じゃね? それにみんなが押し付けてきたんじゃん。それに大丈夫だよ、俺の
頭なら」
幸太は暫く黙って優歌を見た。優歌はその沈黙の間得体の知れない焦りに捕らわれた。
(なんだコレ…めっちゃ手に汗掻いてるんですけど。うっわ、なんか急に不安になってきた…そういや
もともと竹高に受かる自信なんてないし、まわりには強気に言ってるけど結局上辺だけだし……)
優歌は頭の中がぐちゃぐちゃになりそうな感じがして気持ち悪くなっていた。
そこに幸太の声が響く。